小樽芸術村 OTARU ART BASE

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2021/08/14

【今週の1点】歌川広重《浅草金龍山》(「名所江戸百景」より)

今週は、開催中の企画展「歌川広重 名所江戸百景」の出品作の中から、安政2(1855)年に起こった大地震と関係があるといわれている一点をご紹介いたします。



歌川広重《浅草金龍山》
安政3(1856)年
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「名所江戸百景」は、安政3(1856)年に刊行が始まります。その4か月前の安政2(1855)年11月、推定マグニチュード7の大地震が起こり、江戸は下町を中心に壊滅的な被害を受けました。
大地震では、浅草寺の五重塔の屋根装飾「九輪」(くりん)が曲がってしまいました。浅草寺は江戸の古刹で、五重塔は遠くからも見える江戸のシンボルのような存在です。ぐにゃりと曲がってしまった九輪の姿は人々に衝撃を与えたとみえて、地震の直後にはその姿を描いた瓦版も作られました。
本作《浅草金龍山》にも左手に五重塔が描かれていますが、しかし九輪はまっすぐです。九輪は地震の翌年5月に修理が終わり、本作はその直後に出版されたもの。ここに描かれているのは修理が終わった五重塔の姿なのです。本作は出版のタイミングや、画面全体の紅白の配色から、五重塔の修理を祝う意図が込められたのではという見方があります。
江戸のシンボルである五重塔が無事に修理され、元の姿を取り戻したことは、人々に復興への希望をもたらしたことでしょう。

名所江戸百景」には、江戸のまちが復興していく様子を伝えていると考えられている図がいくつかあり、震災との関りという観点からも考察されています。(山田)

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