スペシャル対談対談 寺島 実郎×似鳥 昭雄

ニトリというビジネスモデルの可能性

3「現場感覚」を大切にしながら世界3,000店舗を目指す

寺島
21世紀に入って日本の消費構造は低迷が続いており、ある統計では家計当たりの消費総額が年間約30万円以上下落しています。また、単身世帯や少数世帯が増加するなど、世帯構造がコンパクトになりつつあります。こうした状況のなかで増収増益を続けておられる背景には、どのような戦略があるのでしょう。
似鳥
やはり、市場の先を読むということが重要だと考えています。5年後、10年後、20年後にどのような人口動態になるかをあらかじめ調査し、いずれ人口が増えてくるエリアを把握して、そこに先んじて出店していくというやり方です。
寺島
なるほど。そうした手法で郊外店を成功させている一方で、近年は都心でも店舗数を増やされていますが、そこではまた異なる戦略があるのでしょうか?
似鳥
都心型店舗ならではの商品プロジェクトを推進しています。といっても、まったく新しい商品ではありません。当社の商品構成を価格帯で見ると、低価格帯が約6割、中価格帯が約4割ですが、都心型店舗では20~30代のOLや若い夫婦などをターゲットに、中価格帯のみを揃えてホームファッションによる豊かさを提案しています。
寺島
近年、都市部ではコンパクトな世帯が増えているなか、それら世帯を見据えた都心型のビジネスモデルがしっかりと確立されている。なおかつ「お、ねだん以上。」に象徴される、お求めやすくてクオリティの高い商品を提供するという哲学はしっかり踏襲されているわけですね。私の周囲の若い人々が家具を調達する様子を見ていても、ニトリという選択肢が大きくなってきているのが感じ取れますが、今後の店舗数や売上についてはどのような目標を掲げているのでしょう?
似鳥
最初の30年計画は2002年で終了し、現在は2032年までの30年間計画を推進中です。このうち、最初の10年間、2013年までに店舗数を3倍に拡大しており、今は次の10年間に入っています。ここでの目標は1,000店舗、売上1兆円で、最終的には3,000店舗、売上3兆円を目標にしています。
寺島
3,000店舗の内訳はどのようにお考えでしょうか?
似鳥
日本では、ホームファニチャー、いわゆる家具と、カーテン、カーペットなどホームファッションを合わせたものを「ホームファニシング」と呼んでおり、これが500店舗。そして、「デコホーム」と呼ばれる陶器類なども含めた300坪前後の店舗が500店舗で、あわせて1,000店舗。残る2,000店舗は中国やアジア、欧米など海外に拡大していきます。
寺島
要するに、ニトリを本体としながら、ニトリから波及した多様な商品を、明確なターゲットに向けて提案していくような展開を考えておられるのですね。なかでも注目しているのが海外展開、それも最初に目を開かれたアメリカに乗り込んでいる点です。
似鳥
アメリカでのビジネスが、すぐに成功するとは思っていません。やはり日本はアメリカより20年遅れていると思いますし、そもそも日本人とはサイズが異なるので、日本と同じ商品を販売しても2~3割しか通用しません。ですから、アメリカ進出は「第2の創業」と考え、現地での商品開発をはじめ、すべてゼロから取り組んでいます。
寺島
苦戦するのが分かっていながら、なぜ打って出たのかという声もあったのでは?
似鳥
それは、現地で実際に教えてもらおうということです。それまでも、毎年、日本から社員を米国研修に出して、徹底的に調査と勉強をしてきましたが、それだけではかなわないですよ。ですから、実際に現地に出店して、何が売れて何が売れないか、それはなぜなのかを把握する、その方が早道だと考えたのです。
寺島
なるほど。これまでのお話を伺って、やはり似鳥さんの持つ「現場感覚」、つまり現場で自分の足と目で確認しながら進めている姿勢が、今日のニトリを作ってきたということを改めて思い知らされました。どうもありがとうございました。
似鳥
こちらこそ、ありがとうございました。